◆はじめに:思い通りにならない気持ちとどうつき合うか
小学生になると、社会生活や勉強の中で「うまくいかない」「我慢しなければいけない」場面が増えてきます。そんな中でよく聞かれるのが、こんな悩みです。
- 「すぐに怒って手が出る」「泣きわめく」
- 「感情の起伏が激しい」「気分にムラがある」
- 「言葉で気持ちを伝えられず、黙りこんでしまう」
大人でも、自分の感情をコントロールするのは難しいこと。小学生は、まだ「自分の気持ちを客観的に見つめて処理する」経験が少ない分、荒れたり詰まったりしやすいのです。
この章では、「心を落ち着ける力」「気持ちを言葉にする力」を家庭で育てるために、親子で楽しくできる工夫や声かけ、関わり方をご紹介します。
◆1. 「怒る」「泣く」には理由がある!まずは“感情の名前”を知ろう
●気持ちを言葉にできる子は、感情のコントロールがしやすくなる
感情は、抑えつけるより「気づいて認める」ことから整っていきます。でも、多くの子は「イライラ」「モヤモヤ」などの気持ちをうまく表現できず、爆発や沈黙という形で出してしまいます。
《実践例:気持ちの言葉カード》
準備:
・画用紙に感情を表す言葉+簡単なイラストを描く(例:「イライラ」「うれしい」「くやしい」「さみしい」など)
・100均の感情カードや、絵本なども代用可
やり方:
- 感情が高ぶった時、「今の気持ち、カードにあるかな?」と一緒に探してみる
- 穏やかな時間に、親も「今日は“しんどい”だったな〜」と日常的に使う
- 寝る前などに「今日の気持ち、どれだった?」と選ぶ習慣をつくる
ポイントは、「感情に名前があると、落ち着ける」ということを実感させること。「わからない」は恥ずかしいことではなく、学べることなんだよという空気を大切にします。
◆2. 気持ちの爆発を防ぐ“気づき”の習慣づくり
●子どもは「爆発するまで自分で気づかない」ことが多い
「もう限界!」になる前に、「今ちょっとイライラしてるかも」と気づければ、感情は暴走しにくくなります。
《実践例:こころの温度計をつくる》
作り方:
- 画用紙に「こころの温度計」を描く(1〜5の段階)
1=落ち着いている、5=怒り爆発寸前 - それぞれの段階に、顔のイラストや「やっていいこと」を書いておく
使い方:
- 「今、何度くらいだと思う?」と日常的に聞く
- 「4になったら一度ストップ」「5になりそうなら“クールダウン”」などの対応策もセットで覚えさせる
- 自分で温度を感じて、行動を変えられるようサポートする
怒りを「悪いこと」とするのではなく、「気づいて対処できる力が大事」と伝えましょう。
◆3. 怒り・悔しさ・不安の“出し方”を教える
●「黙る」「暴れる」以外の“表現手段”をもたせる
子どもにとって、「気持ちを出しても受け止めてもらえる」という経験は、心の安全基地になります。
《実践例:感情日記&モヤモヤノート》
▼感情日記
- 毎日じゃなくてOK。感情が大きく動いた日だけ
- 「今日はこんなことでイライラした/うれしかった/悲しかった」など、絵でもOK
▼モヤモヤノート
- 「今は誰にも言いたくないけど書きたいこと」を自由に書くノート
- 書いたら閉じてOK。見せなくてOK。
- 時々「よかったら教えてね」と親が声をかける
「書いてもいい」「言葉にならなくても大丈夫」という受け皿があると、感情を無理に抑え込まずにすみます。
◆4. 親ができる“心の安全基地”のつくり方
●安心できる場所があると、子どもは外でも頑張れる
親の接し方が、「評価」や「ダメ出し」ばかりになると、子どもは「安心して自分を出せる場所」が家庭に無くなってしまいます。
《実践例:感情に共感するフレーズ》
子どもの感情に寄り添うには、次のような声かけが有効です。
- 「そうだったんだね、悔しかったんだ」
- 「それはびっくりしたよね。こわかったんだ」
- 「そんな気持ちになるの、よくわかるよ」
感情に“正解”はありません。何かを言い聞かせるよりも、「気持ちに共感してくれた」と感じることの方が、子どもの心には何倍も響きます。
◆5. ストレスを発散できる“体と心のクールダウン法”
●感情が高ぶった時は「思考」より「身体」が効く!
怒りや不安は、言葉でコントロールしようとしても間に合わないことが多いです。そんな時は、“体”から整えるアプローチが効果的。
《実践例:家庭でできるクールダウン法》
- 深呼吸ゲーム:「風船ふくらませ大会」「ろうそくの火を消す呼吸」など遊びにする
- “怒りバクダン”を投げる:クッションや枕を投げたり、叫び声をクッションにぶつけたり
- ハンカチびりびり:1枚のハンカチや古布を破くように引きちぎってストレス発散
- 氷を握る:「冷たい!」という感覚に集中すると、怒りの興奮がスッと引く
クールダウンは「怒ってもいいけど、切り替える方法を知ってる」という安心感につながります。
◆6. 「甘えさせすぎ?」を怖がらない。愛情で安心を育てる
●情緒不安定な子ほど、愛情の“充電”が必要
「もう小学生なんだから」「そんなことで泣かないの」と突き放すよりも、「甘えたいサイン」を見逃さないことが、かえって自立への近道です。
《実践例:甘えタイムを“見える化”する》
- 「甘え券」をつくる:ハグ1回、10分だっこ、となりで寝る、など
- 「一緒時間カレンダー」:今週はいつ、何を一緒にする?を子と相談して記入
- 「ぎゅっとタイム」:寝る前の3分間だけ、無言でぎゅっとする習慣
愛情は“注ぎすぎ”るものではなく、必要な分を“その子に合った形で届ける”もの。満たされた子ほど、外でしっかりと立つことができます。
◆7. 親子で感情を育てる“映画・絵本・ごっこ遊び”の活用
●物語の中の感情体験が、自分の気持ちを育てるきっかけに
ストレートに感情を語るのが苦手な子も、「誰かの気持ち」なら語りやすいことがあります。
《実践例:感情を育てるコンテンツ活用》
- 映画やアニメを観たあと、「どのシーンでドキドキした?」「どの子にイライラした?」など感情に注目
- 絵本の登場人物の気持ちを「この子はどんな気持ちだったと思う?」と話し合う
- 「感情ごっこ」遊び:「びっくり顔」「悔しい顔」などを親子でまねして表現力を育てる
“気持ちに向き合う遊び”は、楽しみながら心の語彙を増やし、他者理解にもつながります。
◆まとめ:感情の土台は“安心感”から育つ
- 「感情に名前をつける」ことが心を落ち着ける第一歩
- 気持ちに気づく“こころの温度計”でコントロールを練習
- 「表現する」手段をいくつも用意してあげる
- 親が“共感してくれる人”であることが子どもの安心感につながる
- クールダウンは体と感覚から。ゲーム感覚で習慣化
- 甘えは悪ではない。“充電”してこそ、自立できる
- 映画や絵本をきっかけに、心を育てる対話を
次回は【第5章】発達や個性に関する悩みへの実践例をご紹介いたします。