◆はじめに:子どもの成長は「早い」「遅い」より「違う」
「同じ年の子と比べて、できないことが多い気がする」
「落ち着きがない」「空気が読めない」「話を聞けない」
「こだわりが強く、うまく折り合いがつけられない」
こうした親の悩みの背景には、“発達特性”や“個性”の違いがあります。
でも、それは決して「劣っている」ことではありません。
むしろ、本人がその特性を「どう扱えるか」で、力にも弱点にもなり得るのです。
この章では、発達に不安のある子や特性の強い子に対して、家庭で安心してできるアプローチを具体的にご紹介します。
◆1. 「できない」ことの前に、「何が得意?」を見つけよう
●苦手なことより、得意なことから伸ばす方がうまくいく
発達に特性がある子ほど、「注意される」「叱られる」経験が多く、自信を失いやすい傾向があります。まず大切なのは「この子には得意なことがある」という視点。
《実践例:得意さがしノート》
準備:
・1冊のノートを用意(スケッチブックや自由帳でもOK)
やり方:
- できたこと、得意なこと、楽しかったことを親が書く
例)「レゴですごい形を作った!」「妹の面倒を見てくれた」「集中して本を読んでた」 - 時々「こんなことができるようになったね」と一緒に読み返す
- 子ども自身にも「今日のベスト行動」を書かせる(絵でもOK)
これは「記録」ではなく「発見のツール」。
どんな子にも必ずある“良さ”を親子で発掘し、可視化することで、自己肯定感が育っていきます。
◆2. 気になる行動の「理由」を探ると、対応が見えてくる
●その“困った行動”、実は「困っているサイン」かも?
例えば——
- すぐ怒る子 → 自分の思いが伝わらない・理解されないストレス
- 席に座れない子 → 感覚過敏や過集中、姿勢保持の苦手さ
- 忘れ物が多い子 → 視覚的な記憶が苦手、時間の見通しが苦手
行動だけを見て「だらしない」「わがまま」と思わず、「どうしてそうなるんだろう?」という目で見てみましょう。
《実践例:行動メモで見えてくる“パターン”》
やり方:
- 気になる行動が起こった時、「時間・場所・前後の出来事」をメモする
例)「朝の準備中にパニック」「帰宅後の宿題前に怒る」 - 何回か記録すると、「いつ・どんな時に起こるのか」が見えてくる
- 環境を少し変える(静かな場所でやる、手順表を見せるなど)と、落ち着く子も多い
子どもを変えるより、「環境と関わり方」を変える方がスムーズに進むこともあります。
◆3. 「枠」にはめず、「この子なりの方法」で工夫していく
●“みんなと同じ”じゃなくていい。“自分に合った”やり方を探そう
特性のある子は、「手順通りにやる」「じっと座っている」などが苦手なこともあります。
でも、やり方さえ工夫すれば力を発揮できるケースもたくさんあります。
《実践例:やり方カスタマイズ》
▼宿題・勉強編
- 1枚のプリントを「切って1問ずつ渡す」
- タイマーを使って「集中3分→休憩2分」などリズムをつける
- 音読を「録音→再生して聞く」「一緒に交互に読む」など遊び感覚にする
▼生活編
- 支度の手順をイラストで壁に貼る
- 時計の代わりに「流れの見えるタイムスケジュール」を色で示す
- 忘れ物防止に「玄関前に貼り紙」や「ランドセル横にメモ」を使う
「方法を変えること」は甘やかしではなく、“支援”です。
一人ひとりに合ったやり方を見つける力が、その子を自立に導きます。
◆4. “感覚の違い”に寄り添う暮らしの工夫
●音・光・におい・触感…世界の感じ方がちょっと違う子どもたち
発達特性の中には、「感覚過敏」「感覚鈍麻」など、“五感”の感じ方に違いがある子もいます。
「人混みが苦手」「服のタグが気になる」「手が汚れるのが嫌い」などは、日常生活にも影響します。
《実践例:感覚の“マイセーフゾーン”を作る》
- 音が気になる → ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓、図書館モードの部屋
- 手が汚れるのが苦手 → お絵描きはタッチペンに、料理はゴム手袋で対応
- 落ち着く場所がほしい → 折りたたみテントや布で囲った“自分だけのスペース”を用意
- 香りが苦手 → 柔軟剤や芳香剤の種類に注意、無香料グッズに切り替え
本人が「気持ちよく過ごせる環境」を一緒に探してあげることが、生活のしやすさと心の安定につながります。
◆5. 「周りと違う」ことをどう受け止めるか
●「違いを否定しない関わり」が、子どもの自己肯定感を守る
「どうして自分だけ怒られるの?」「なんで友達みたいにできないの?」
そう思っている子どもに、こんな風に伝えてみてください。
《実践例:違いは“力”だと伝える言葉》
- 「みんなと同じじゃなくていい。あなたにはあなたのよさがある」
- 「苦手なことがあっても、それは直すより“工夫する”ことが大事なんだよ」
- 「ちょっと変わってるって言われた? でも“変わってる”って、“才能がある”ってことだよ」
違いを“恥ずかしいこと”ではなく、“個性”としてポジティブに言語化してあげることが、子ども自身が自分を大切にする力になります。
◆6. 困った時は「ひとりで抱えない」仕組みを持つ
●家庭でできることには限りがあるからこそ、“つながる力”を育てる
どんなに親が工夫しても、「それでも難しい」ことはあります。
そんな時、「親がつながる先」「子どもが助けを出せる先」を確保しておくことはとても重要です。
《実践例:SOSを出す練習》
▼家庭の中で
- 「困ったら、このカードを渡してOK」という“助けてカード”を作る
- 「イヤなことはイヤって言っていいんだよ」と具体例を使って教える
- 「いつでも戻れる」「やり直していい」と伝える
▼外部の支援につなぐ工夫
- 担任の先生に「こういう時に苦手です」とメモや連絡帳で共有
- 学校のスクールカウンセラー、地域の相談機関を使う練習を親がしておく
- 「一緒に聞きに行ってみよう」と、子どもと一緒に説明を受けに行く
支援は「困ってから」ではなく、「困る前から」使っていいもの。
子どもも「誰かに助けてもらっていい」と知ることが、安心の土台になります。
◆まとめ:この子の“今”を一緒に味わおう
- 得意なことから自己肯定感を育てる「強み探し」が土台
- 行動には必ず理由がある。「なぜ?」を一緒に探す目線を
- 周囲に合わせるより「合った方法」で工夫する
- 感覚特性には、快適に過ごす環境調整が効果的
- 違いを否定しない言葉が、自分を大切にする力になる
- 「困ったら助けてもらっていい」を当たり前にする
次章【第6章】では、「子育ての迷い・不安」に焦点を当て、家庭でできる心のケアや親の気持ちの整え方についてご紹介します。